数寄屋大工の技術とは?

What is the technique of Sukiya carpenter?

侘びた草庵茶室を作る為には数寄屋大工の技術が必要です。

草案茶室とは、茶禅一味の侘び茶の精神を突き詰めた、狭小で簡素化した民家の部材の、自然の美を生かした空間であることは『草案茶室とは』のページで紹介しました。草案茶室はこれらの仕様を綺麗に納めることで、侘びた雰囲気を美しく作ることが出来ます。
現代の大工の技術は効率化されて、施工技術の幅が狭いので『当時の民家の部材の自然の美』を作る為には、数寄屋大工の施工技術が必要です。

数寄屋大工ならではの巧妙な施工

草庵茶室は、柱など『丸太』を主に使い、床柱や廻り縁、壁止めなどを『皮付きの丸太』を使うこともよくあります。『天井を真行草の3段構成』にしたり、仕上げを『網代に組んだへぎ板を竹で押さえる』など様々な仕様があります。窓は竹で組んだ下地の小舞の仕上げの塗り壁を塗り残した『下地窓』、躙口は侘びた雰囲気の『挟み敷居と鴨居』など、これらを美しく作るのが数寄屋大工の技術です。
また、建具(躙口の板戸や腰付き障子、襖)は茶室特有の意匠がありますので、数寄屋大工と協力しながら建具屋が作ります。

本格的な草庵茶室は、なるべく丸太柱を使いますが、建具が当たる所などは面が取ってないと隙間が出来てしまうため、面皮柱を、要所要所に使います。
柱が角で無いことでとても柔らかい雰囲気の空間になります。材は杉で木目も緩やかな曲線を描がいていてこれも優しい雰囲気で美しさを作ります。

『面皮柱』を戸当たりにした貴人口

貴人口の建具は腰付障子で、腰はノネ板張りとし、その押さえは竹や削り木を使うのが通例です。これは数寄屋の得意な建具屋が作ります。

貴人口の『腰付障子』

躙り口の『挟み鴨居』も杉の丸太を使い柔らかい雰囲気を作り、挟み敷居』は蟹杢など木目の表情のある材などです。お客様が躙るところなので、味わいのある風景を作ります。

躙り口の上は窓を付けますが、ここでは下地窓を付けています。壁の下地の『竹の小舞』を塗り残したようにして作る窓ですが、茶室では竹では太く隙間が少なく採光に支障があるので、細い皮付きの葦(ヨシ)が使われます。

サッシ側につけた躙り口 上は下地窓

下地窓の室内側は、片引き障子にするのが通例です。(連子窓は引違い障子が通例)戸当たり(左側)は竹などを使い、侘びた雰囲気を作ります。

躙り口は2.5枚の板戸で、上框を付けず、古雨戸の一部を利用したという簡素な気持ちの表現と言われています。

下地窓の室内側は、片引き障子にするのが通例

下の写真は、赤松皮付丸太の床柱と、天井廻り縁の丸太同士の納めです。角材と違い丸太の納めは隙間ができますので、それを綺麗に見せるのが、数寄屋大工のならではの技量です。

また、丸太の廻り縁と天井材(へぎ板の網代)の納めは、小竹を入れて綺麗に隙間を作った繊細な作りです。

赤松皮付丸太の床柱と、天井廻り縁の丸太との納まり

平天井(左側)はへぎ板の網代で納めに丸太を使っています。駆け込み天(右側)は、杉丸太の垂木に、小舞の竹の構成です。
天井廻りは数寄屋大工の腕の見せ所になります。

左の平天井はへぎ板の網代 右は掛け込み天井

数寄屋大工の仕事場と材の仕入れ

数寄屋大工の施工は現場仕事だけでなく、作業場での部材カットや、納めの加工することが多くあります。先に作業場で部材カットや納め加工をし、仮組をして綺麗に納まるか確認しながら作業を進めるからです。

作業場の方が、仮組のスペースや、ノミなどの巧妙な工具、適切な部材選定(余剰部材のストックがある)など環境が整っているからです。
作業場を使うことで綺麗に作れて、しかも施工時間が短く出来るのでコストも下がります。

マンション(RC造や鉄骨造)に茶室を作る場合は、建物と余り絡まない形で茶室が作られる事になります。
その場合は、数寄屋大工の作業場で、床、柱、床の間、出入り口、窓まで作った方が効率的です。

以下の写真は、実際の工事場での作業工程です。

床組を終え、柱の位置だし 既に炉を切る位置は決まっています。
柱の位置を決める 床柱の見栄えや、建具の納まりが決まる大切な所です
躙り口と下地窓側の壁 サッシとの取合いの為、位置が重要です
炉は重量があるので、強靭に作ります。床補強は現場でやります
床の間周り、落し掛けと、床框の納めを作る

作業場で、床、柱、床の間、出入り口、窓まで作り、部材をばらしてから現場に運びます。

現場で組み立てながら、茶室とマンションの躯体のと取り合いや、壁や天井の下地と仕上げ等を進めます。

数寄屋大工の材の仕入れ、ストック
茶室を専用に作る数寄屋大工は、床柱や板材など安い時に仕入れた材を作業場で保管してあり、その材を使えるためコストを抑えられます。
茶室作りで費用が高くなるのは、銘木屋から全ての材を新たに仕入れるのも、もう一つの要因です。
銘木屋から数寄屋大工を紹介された場合は、新規に部材を購入するので高くなります。(住宅会社もこのルートが多いです)

大規模な公共建築や商業建築を作る場合や、立派な銘木をふんだんに使いたい場合以外は銘木屋から全ての材を購入する必要はないです。

躙り口、挟み敷居と鴨居(左) 赤松皮付丸太、床柱 

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