躙り口とは

What is Soan Nijiriguti?

草案茶室と躙り口

躙口は、千利休が草庵茶室・待庵に設けたのがはじまりと言われています。千利休が淀川の漁夫の船小屋の出入口をヒントにしたという逸話がありますが、それ以外にも商家の大戸の潜りや能舞台の切戸など似たような仕様はあり、小さな出入口は利休が考えたと言うより、茶室に取り入れたことに深い意味があるのでしょう。

草案茶室は、侘茶の精神性/思想を茶室で表現したものと言えます。戦国時代は天下人が威厳をふりかざす時代で、身分の上下関係は絶対的ですが、茶室に入る所が躙口ならば、誰であろうとも低く頭を垂れて伏して入らねばなりません。

茶室では、まず身分を捨てお互いに一人の人間として、ありのままの姿になる、その精神性/思想を躙る所作で伝えるため、入口を躙口にしたと解釈ができます。

不審庵躙口 侘びた佇まい
今日庵 躙り口 左は点前座

躙り口は『挟み敷居/挟み鴨居』が本来の仕様

躙り口の大きさは、高さが約70cm、幅が約67cm程です。(待庵は72×79㎝程で現代よりやや大きめです)

躙り口の本来の仕様は『挟み敷居/挟み鴨居』で、通常の障子や襖のように、敷居と鴨居に溝を掘りレールとして使う仕様ではありません。
鴨居と敷居から別の材を張り出させ、その間をレールとして使います。もとの鴨居/敷居と張り出した材の間に戸を挟んで納めるため『挟み鴨居・挟み敷居』の名前が付いています。

躙り口の設置場所は、躙口正面を床の間にすることが多く(待庵/今日庵/又隠/澱看席/八窓席など)、お客様が茶室に入った瞬間の、演出効果を考えています。

また様々に工夫された躙り口があり、半宝庵の躙口のように幅広く板戸を引違いにして開放性を取り入れてたり、如庵のように、躙り口を少し奥まられて設置して、外観が余り侘びた風情にしないようにしていたり、八窓席のように建物の裏の縁に躙り口をつけて主張を消したりと、様々な使い方に合わせて躙り口は工夫されています。

待庵内部 左が床の間 右が躙り口
半宝庵躙口 引違いの2枚の板戸を入れる
如庵躙口 少し奥まられて設置している
八窓席躙口は建物裏の、縁に設置されている

自宅での躙り口の作り方            

ご自宅に小間の茶室を作り躙り口を設ける場所は、室内間につける場合と、サッシの直ぐ前に設けて庭から躙れるようにするか、2つのケースが考えられます。

室内間につける場合
これは、リビングや玄関や廊下などに茶室のを設けて、そこを躙り口にするケースです。マンション住まいの方が小間の茶室で良く作られます。この場合は躙り口サイズは通常の大きさで作ることが出来ます。
【マンションに躙口のある茶室に興味のある方はこちらから】

サッシの直ぐ前に設ける場合
この場合の注意点は『室内からクレセントに手がかかる』『サッシと躙り口戸を開けた時に有効な幅が取れる』2つの条件をクリアしなければいけないことです。

これは、現場でサッシとクレセントの形状と開き方を詳細に検討しないといけない所です。躙れる内寸を確保する為に、サイズを通常よりも大きくする場合があります。

躙り口の材料
板戸は杉板を2.5枚で作り、『挟み敷居/挟み鴨居』で使う材は、外から見て『敷居は蟹杢』『鴨居は杉丸太の皮面』など表情のある材が見えるように使います。
本来の『挟み敷居/挟み鴨居』の躙口は、数寄屋大工にしか作れない仕様になります。
【数寄屋大工施工を相談したい方はこちらから】

サッシ側につけた躙り口 挟み敷居/挟み鴨居
杉板を2.5枚で作る
上が鴨居『杉丸太の皮面』 下が敷居『蟹杢』

 数寄屋大工さんによる茶室の工事中です。
 15年一緒に茶室作りをしてきた数寄屋大工さんは真の茶室好きで、良いものを作るのを最大の喜びにしている方です。
 費用が合わないだろうと私が低コストの設計をしても、コスト度外視/持ち出しで良い部材で作る、今どきには珍しい数寄屋大工さんです。
 写真1は躙り口 挟み鴨居と挟み敷居の使用する部材です。写真2は工事が進んだイメージの別案件のものです。
一般の大工さんだと、通常の敷居鴨居に板戸を納める仕様でしか作れないですが、数寄屋大工さんは『これを作りたくてしょうがない』と腕を振るいたいのが一緒に仕事をしているとヒシヒシと伝わってきます。今回は通常の敷居鴨居と変わらない費用で作ってくれています。

 昔は『贅沢を省いた茶室の仕様』が今は『高価な仕様』になっている時代のギャップを感じますが、でも、お客様を茶室に通す躙り口は『手間暇かけて丁寧に作る』ことが大切と感じるのは、今も昔も茶人にとって同じなのだと思います。

 お施主様も『丁寧に作った茶室』を『愛着を持って丁寧に使って』いただけると思います。

挟敷居(磨き丸太) 挟鴨居(蟹杢)
躙り口と下地窓 工事中別案件