『初座と後座で居替り』特殊な正客の位置『燕庵』
燕庵は古田織部が建てた三畳台目相伴席付きの間取りで、江戸初期に大流行した茶室です。そのオリジナルを義弟の藪内剣仲に譲り『燕庵形式』とも呼ばれ親しまれ、代々藪内家で受け継がれている有名な茶室です。
燕庵で茶事を行う場合『初座と後座で居替り』をしますが、『初座』の正客の座る所は、床や点前座からお離れていて『床本位、点前座本位』でもないのが特徴です。
これは、お客様に床の間や釜がよく見えるようにした『見せる茶室』への展開と言われています。床前の上座に正客が座るという概念を無くし、茶室を美しく見せることを優先しているのです。
これは織部の作為だと思います。さすがへうげもの織部の美意識はすごいと、とても関心いたしました。(これは西洋から伝えられた現代のインテリア作り『ビューポイントとフォーカルポイント』の考え方と同じですので、インテリア作りの先取りとも言えます)
お客様から見れば、茶室に招かれた時は一番居心地の良い所に座りたいですので、その思いに答えています。
『初座』では床の間と初炭の様子がよく見え、『後座』では亭主の点前の様子がよく見えるのです。
茶事の流れ
また、懐石料理の給仕は、台目畳の台目構えなので点前座からは動線が取れない為、相伴席からの給仕になりますが、初座ではそれもスムーズに出来ます。
そして後座は『床本位』の通常の正客の位置で行われます。濃茶は給仕口を使わないので問題はありません。薄茶は広間に移って行うとのことです。
(この燕庵の茶事での『居替り』は『茶室空間入門 彰国社』より抜粋した内容です。)
まとめ
ご正客が座る所が『見せる茶室』の位置ならば、お客様は居心地の良い空間を堪能でき、くつろいだ時間を過ごせるようになります。
点前座と床の間そして正客の位置で、お客様とのコミュニケーションの形が様々に考えられるのが、茶室作りの難しい所でもあり、そしてやりがいのある楽しいところです。
茶室の間取りを考える時は、どんな客人を、何人程招き、どんな茶会や茶事にするのかを、同時に考えていくことになります。