八畳上座中床
『茶室作りは、工事業者に惑わされないで』

Oribe's aesthetic sense

茶室相談の方のお悩み 床柱&床脇はどこに付けるの?

茶室を住宅メーカーで作られている方が、八畳茶室を『上座中床(間口6尺)、左右に収納(3尺)と床脇(3尺)を付ける時、「収納と床脇はどちらに配置が良いか?」との相談がありました。(右図)

その方は『右に違い棚、左側に収納でそちらに床柱』を考えていたようですが、工事業者に『床柱は床脇との間に付けるものです』と言われ、それでは床の上座側に床柱がきてしまうので困ってしまいました。
(※床柱は下座側につけて、床柱に荘った花がお客様からよく見えるようにします。)

 『床柱は床脇との間につけるもの』とは工事業者の知識不足で、これは『座敷作りのルール』なのです。これしか知らなかったのが、お客様を困らせた原因です。
 茶室は数寄屋とも言われて『好みに任せて作る』この考え方で良いのです

しかし、この好きに作ることが難しいのが茶室作りですので、過去の事例から『なぜそうするのか』と思いを巡らして決めていくようになります。

上座中床は、『表千家の松風楼(写真)』が最も有名な茶室で、床の右側は琵琶床がついています。本当にカッコイイ素敵な床構えで、この床の構成で八畳茶室を作られる方は多いです。

上座中床の茶室は『七事式』と一緒に考案された茶室です

 この茶室の原型と言われる茶室が、表千家七代の如心斎(じょしんさい)と裏千家八代の一燈(いっとう)が、七事式を制定した時に伝えられています。(『古典に学ぶ茶室の設計』中村昌生著 建築知識より)
 花月をされた方は、八畳上座中床の茶室が最も使いやすいのはご存じと思います。
 七事式は、江戸中期に茶道人口が増え、遊芸の風潮で茶道の厳しさが失せたので、大徳寺玉琳院住職の『大龍宗丈禅師』、参禅の師『無学和尚』の助力と共に、禅の精神に基づく厳しい修練を目的としてつくられたとのことです。

 正面中央に間口6尺の床を構え、両脇に棚を配する構えです。そして、棚の形式を変えたり一方を琵琶棚にすることもあります。(図参照)
 また、中床は床の間に畳が床挿しにならないという利点もあります。
 茶室研究の大御所、中村昌夫先生は、『長押は付けて無いですので、茶の湯の空間の中に座敷飾りの要素を入れた』と見るべきと、話しています。

茶室は、床脇の構成を自由に考えます

 このように茶室は『どんな茶の湯をするのか』その為に自由に構成を変えて良い、と歴史が伝えくれます。

「茶室には床荘り以外は物を荘るべきではない」と言う方もいますが、我が家では比較的自由に飾ります。
 それは、節句(正月、豆まき、お雛様、五月人形、七夕、重陽)の時期に節句飾りをしたいからです。
 家の和室は茶室しかないですし、茶道のお弟子さん達に『日本の生活文化の節句を伝えたい』という気持ちもあります。

 茶室相談の方も『右に違い棚を配置して、節句の飾りをしたい』と仰っていました。私も大賛成です。
 そして茶室の決まり事とおりに左の収納側に床柱を付けます。これで良いのです。

 現代は和室が減ってきて、茶室以外に和室は残らないのではないかと思うことがあります。茶室はそれぞれのご家庭に合わせて、もっと自由に作ってもよいのだと思います。

完成した、八畳上座中床の茶室
左の間取りは「収納と床脇はどちらに配置が良いか?」
表千家の松風楼 ホームページより
表千家の松風楼
中床、左右を床脇とした茶室
我が家の『桃の節句時期』の床の間