【佐原商家町ホテル NIPPONIA】の魅力
■ホテルの概要
千葉県香取市の『佐原商家町ホテル』は、佐原の町の『歴史建築を上質な客室』にリノベーションした、分散型ホテル群を展開しています。この『歴史建築を上質な客室』がとても魅力的な空間で、しかも私が建築/インテリアのプロとしてビックリしたことをお伝えします。
その前に簡単に、佐原の町の歴史をお伝えすると、江戸期に利根川を使った年貢米の集散地として栄え、「江戸優り(えどまさり)」と言われるほどの商業町へ発展た町なのです。現代でもその歴史景観が残る町並みが、小野川沿岸(水運)を中心に広がっています。その建物/風景を活かした街作りが最大の魅力で、街を散歩するだけでも楽しい所です。
今も映画などの江戸時代のロケによく使われている町です。
■宿泊した部屋のインテリアの魅力
■宿泊した部屋は、元製綿業を営んでいた商家の明治期に建てられた母屋を、ほぼ一棟貸りた感じです。
入り口は店構えとは反対側にあり、坪庭エントランスから入ると、正面が母屋で、右の細長い所が浴室群です。
□母屋の一階には広い玄関(約5畳)と8畳和室+広縁とトイレがあります。
玄関に入ると、すぐ右手に洗面台が置いてあり便利です。外出後、夜や朝の歯磨きなど3人で泊ったので待つことなく洗面が使えます。
正面は店側に繋がるドアです、ここは締め切りです。たぶん従業員が使う部屋でクリーニングなどでは開けるのでしょう。
正面右手は、掃出しの引違いドアを改装したような腰高窓がありますが、このドアを窓にした所が家の中に沢山見受けられます。
・八畳和室は正面窓側が床の間で飾りはあっさりしていますが、空間のゆとりを感じます。
空間のグレードを作っているのが、腰付き障子で『額障子』という真ん中の額の部分にガラスが入っているものです。
今はホテル仕様なので、坪庭から室内が見えないように目隠しに紙を貼っていますが、建てた当時のガラスが高価だった時代は、障子で外が見えるのは、インテリアのステイタスシンボルだったはずです。
また床の間近くの、付け書院のような障子の細かさや、デザイン組子の障子も粋な感じす。
・良い物がしっかり残っている反面、私が少し驚いたことがあります。それは、障子の腰板がかなり痛んでいたことです。
でもこれは、妻も娘も気が付いていないと思います。私は仕事柄、心地が良い建築は『どこがどうなっているから心地が良いのか?』と、隅々まで観察する癖があるから、たまたま気が付いただけです。
そして気がついても『ガッカリする』ものではなく、逆に『今自分は歴史ある建物の中で過ごしている』満たされた感じがありました。
『上質な空間は隅々まで全て完成度を上げていくべき』と今までの私の考えでしたが、その概念は変わり『多少ラフな所は残っていても気にすべきではないんだ』とデザイン設計の思想が変わりました。
『佐原商家町ホテル』のこの感覚は、寝室/お風呂/レストラン/カフェなど様々な所で感じまして、今回はこの話が中心になります。
□二階の寝室には、長い天井の低い廊下を通り、はしごのような急な階段(これも驚き)を登ると二畳の前室があり、脇に約十畳の和室をフローリングに変えた寝室があります。
こちらの床の間と違い棚も飾り物は最小限で、空間の広がりをつくっています。
この部屋は道路に面した『店』の上の部屋で、ソファのある窓の外には格子が付いています。外観から見ると格子が密に入っているように感じますが、インテリアからは全く暗さを感じさません。このガラス窓も『額障子』の意匠を使ったデザインで、中央の額だけ透けて外の格子が見えて、これが窓のデザインの一部のように見えます。
そして、天井がスッキリと広がりを強く感じのは、竿縁が下側が細くなっている『猿頬天井(さるぼおてんじょう)』だったことに気が付きました。竿縁天井の角材はゴツイ雰囲気になるので『猿頬天井』の効果を改めて感じました。
□離れの浴室は、な…なんと、隣の蔵の外壁を使った空間
お風呂は玄関を一度出て、坪庭から別棟の細長い建物の中にあります。
何に使っていたかわからない土間を通り、脱衣室の先が、ヒノキ浴槽の風呂、さらにその奥が陶器浴槽の露天風呂です。この二つの片壁は隣に建つ『蔵の壁』をそのまま使っていてこれも驚きです。
浴室を作る時に、蔵に付けて増築したのでしょうが、力強い壁が空間を居心地よくしています。
そして、ヒノキの少しヌルッとした浴槽と、空が開いた所にある少し硬い陶器の浴槽。この対比も面白く、明らかに仕様の完成度より『居心地の良さ』を優先している感じです。
『心地よさって…幸せって…なに?』湯船につかりながら思いを巡らしました。
■フロント・レストランの魅力
□チェックインするフロントは、みりん工場だった蔵を改装した建物の中で、その奥にレストランがあります。
外観は白木の板張りで綺麗に改装してあります。中に入るとなるべく昔の風合いを残した仕様で、空間の大きさや柱/梁の太さだけでも十分に見ごたえがあります。
構造的に問題がある所はしっかり直しています。(柱の足元は腐った部分を取り換えたりです)
大きな外ドアを付けたり、レストランとの間仕切り壁を立てて、新旧の部材が混ざっていますが、全く気にならないように仕上げの統一感を作っています。
□レストランには、樽をモチーフにしたような大きな照明が取り付けられています。そして間接照明を使いながら空間の広がりと古い木材の魅力を魅力的に見せています。
漆喰壁の汚れはそのままにしている所が多く、特に高い所の壁はかなり汚れたままですが、これが『蔵を改装した所で食事ている』と感じさせてくれます。
料理話もしたいですが…ブログ目的が変わるので無しです。
NIPPONIAのカフェと周辺
■この建物は以前『佐原商家町ホテル NIPPONIAのフロント・レストラン』だった所で、今は、絶品のかき氷など食べれるカフェになっています。
佐原の中心の小野川と街道の交差点に建っていて県の有形文化財のようです。代々荒物や雑貨を扱う商家とのことで、確かに『雑貨屋』の雰囲気があります。
□2階は畳敷きの大広間(八畳二間+六畳位)で、商家町時代はどんな使われ方をしていたかわからないですが、ひざ元まで開いた大きな開口と障子が連なる空間は、贅沢に感じたと思います。
その他にもNIPPONIAは佐原に、レストランなども展開しています。
■周りの環境の魅力
建築探訪のブログですが、少しだけ観光にふれます。
佐原の町の魅力は· 小野川沿いの歴史的町並み · 伊能忠敬旧宅/記念館· 佐原 山車会館など歩いて回れて、古い民家で続けている
お店も魅力的な所が多く、ゆっくり楽しめることです。
車で少し移動しても· 香取神宮 · アヤメパークなどなど観光地も多く魅力的です。
『古い文化がそのまま残っている』これが最大の魅力なのでしょう。
最後に
『上質な空間は多少ラフな所は残ってよくて、魅力的なものをしっかり見せる事が大切』であり、『隅々まで全て完成度を上げる必要はない』と書きましたが、今思えば、私も若かった頃はその『魅力的なもの作り』に集中して仕事をしていました。
住宅メーカーに長年勤めていたので、些細な事のクレームを嫌う企業体質が身について『魅力作り』の意識が弱くなったていたのかもしれません。
これを期に、魅力的なものに集中してデザイン設計の仕事を続けていこうと心に決めました。
その為には、やはり魅力的なものに沢山触れることが大切ですね。